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東京高等裁判所 昭和52年(ネ)3173号 判決

昭和五二年(ネ)第三一七三号控訴人 浜田安男

昭和五三年(ネ)第一五二号被控訴人 京葉商事株式会社 外一名

昭和五二年(ネ)第三一七三号被控訴人・昭和五三年(ネ)第一五二号控訴人 株式会社川田商会

主文

一  昭和五二年(ネ)三一七三号事件について、原判決中控訴人浜田関係部分を次のとおり変更する。

被控訴人川田商会は、訴外京葉住宅株式会社から金一五〇〇万円及びこれに対する昭和四五年八月二一日から完済まで年一割五分の割合による金員の支払を受けたときは、控訴人浜田に対し、本判決による更正後の原判決別紙物件目録第三記載の各物件について千葉地方法務局昭和四五年八月二六日受付第五八九九七号をもつてした所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

控訴人浜田のその余の請求を棄却する。

二  昭和五三年(ネ)第一五二号事件について、控訴人川田商会の本件控訴を棄却する。

三  原判決主文第二項1のうち「所有権移転仮登記」とあるのを「所有権移転請求権仮登記」と、原判決別紙物件目録第一の一のうち「提根新田」とあるのを「堤根新田」と、同目録第三の五のうち「同所四四五番一」とあるのを「同所四四五番地一」と更正する。

四  原審及び当審における訴訟費用中、控訴人浜田と被控訴人川田商会との間に生じた分は、これを三分し、その一を控訴人浜田の、その余を被控訴人川田商会の負担とし、控訴人川田商会と被控訴人京葉商事及び同双和興業との間に生じた分は、すべて控訴人川田商会の負担とする。

事実

一  昭和五二年(ネ)第三一七三号事件について、控訴人浜田代理人は、「原判決中控訴人浜田関係部分を取り消す。被控訴人川田商会は控訴人浜田に対し、原判決別紙物件目録第三記載の各物件について千葉地方法務局昭和四五年八月二六日受付第五八九九七号をもつてした所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人川田商会の負担とする。」との判決を、被控訴人川田商会代理人は控訴棄却の判決を求め、昭和五三年(ネ)第一五二号事件について、控訴人川田商会代理人は、「原判決中被控訴人京葉商事及び同双和興業関係部分を取り消す。被控訴人京葉商事は控訴人川田商会に対し、原判決別紙物件目録第一記載の各土地について、千葉県知事に対する農地法五条の許可申請手続をし、右知事の許可を条件として、千葉地方法務局野田出張所昭和四五年六月一六日受付第四八三〇号所有権移転請求権仮登記に基づく所有権移転の本登記手続をせよ。被控訴人双和興業は控訴人川田商会に対し、右知事の許可を条件として右各土地につき被控訴人京葉商事の行う右仮登記に基づく本登記手続について承諾せよ。被控訴人京葉商事の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人京葉商事及び同双和興業の負担とする。」との判決を、被控訴人京葉商事代理人及び被控訴人双和興業代理人は、それぞれ控訴棄却の判決を求めた。

二  各当事者の主張は、次のとおり付加するほか原判決事実摘示(原判決五枚目表七行目から一〇枚目表一〇行目まで及び別紙物件目録)のとおりであるから、これを引用する。ただし、原判決六枚目中、表一一行目の「売収」は「買収」の、表一二行目から裏一行目にかけての「二〇〇〇万円」は「二〇〇万円」の誤記、同七枚目中、表六行目の「こわす」は「示す」の、表一一行目の「同四六年三月四日八万円、一六日七万円、」は「一一月五日五〇万円、同月七日三〇万円、同月一一日七〇万円、同四六年三月」の誤記、同八枚目裏六行目の「全員」は「金員」の誤記、同九枚目表一〇行目の「止つた」は「上がつた」の誤記、同一六枚目の物件目録中、表三行目の「提根新田」は「堤根新田」の、裏六行目の「四四五番一」は「四四五番地一」の誤記につき、いずれも訂正の上引用する。

(昭和五二年(ネ)第三一七三号事件関係)

1  控訴人浜田の主張

(一)  控訴人浜田が被控訴人川田商会に対し原判決別紙物件目録第三記載の各物件(以下「本件第三物件」という。)を譲渡し、これらにつき所有権移転登記をしたのは、訴外京葉住宅株式会社(以下「訴外京葉住宅」という。)の被控訴人川田商会に対する金一五〇〇万円の開発貸付金返還債務を担保する目的でしたものであつて、売買契約に基づいて給付したものではない。

しかるに、その後訴外京葉住宅が被控訴人川田商会に対し右金一五〇〇万円の債務につき口頭による弁済の提供をして、本件第三物件の所有名義を控訴人浜田に返還すべきことを求めたのに対し、被控訴人川田商会は、本件第三物件は控訴人浜田から買い受けたものである旨主張して、右弁済の受領を拒絶した。

(二)  したがつて、本件第三物件について被控訴人川田商会の経由している所有権移転登記の抹消登記手続を求める控訴人浜田の本訴請求は、これを無条件で認容することができないとしても、少なくとも金一五〇〇万円の支払と引換えに認容されるべきである。

(三)  被控訴人川田商会の後記主張(二)のうち、同被控訴人が本件第三物件に付着していた根抵当権の負担を除去するため、その主張の金員を出捐したことは知らない。同被控訴人の後記主張(三)は争う。

2  被控訴人川田商会の主張

(一)  控訴人浜田の前記主張(一)の事実は、被控訴人川田商会が本件第三物件は控訴人浜田から買い受けたものである旨主張しているとの点を除き、すべて否認する。被控訴人川田商会は、昭和四五年八月二一日控訴人浜田から本件第三物件を代金一五〇〇万円と定めて買い受け、同月二六日その旨の所有権移転登記を経由し、同年九月一日右売買代金の支払を了したものである。

(二)  仮に、控訴人浜田から被控訴人川田商会に対する本件第三物件の所有権移転の原因が譲渡担保契約であるとしても、本件第三物件については、被控訴人川田商会が所有権移転登記を経由した当時、訴外株式会社千葉興業銀行のため債務者訴外関東飼料販売株式会社に対する債権を担保する債権極度額金二四〇〇万円の根抵当権及び訴外東興信用組合のため債務者訴外株式会社東葉牧場に対する債権を担保する元本極度額金一〇〇〇万円の根抵当権の各設定登記がされており、控訴人浜田及び訴外京葉住宅は被控訴人川田商会に対し、同人らにおいて右各抵当債務を決済し、本件第三物件に付着している右各根抵当権の負担を除去する旨確約していた。しかるに、控訴人浜田らは右約束を履行しないので、被控訴人川田商会は、前記物上負担を除去するため、右各抵当債務の代位弁済として、

(1)  昭和四八年三月二三日訴外千葉興業銀行に対し元金一三四〇万円、利息、損害金一七四万四五六九円、以上合計金一五一四万四五六九円を

(2)  昭和四七年三月二九日訴外東興信用組合に対し元金七八六万八〇六〇円、損害金一一〇万七八二二円、以上合計金八九七万五八八二円を

それぞれ支払つた。

(三)  したがつて、控訴人浜田において被控訴人川田商会から本件第三物件を取り戻すためには、被控訴人川田商会に対し債務元金一五〇〇万円を弁済するだけでは足りず、本件第三物件についての物上負担を除去するため同被控訴人の出捐した合計金二四一二万〇四五一円の費用を償還し、かつ、右元金及び費用に対する取戻し時までの利息を支払うことを要する。右各金員の支払が完了しない限り、被控訴人川田商会は控訴人浜田に対し本件第三物件の所有名義を返還すべき義務はない。

(昭和五三年(ネ)第一五二号事件関係)

1  控訴人川田商会の主張

(一)  控訴人川田商会は、昭和四五年六月八日、被控訴人京葉商事から原判決別紙物件目録第一記載の各土地(以下「本件第一土地」という。)及び同目録第二記載の土地(以下「本件第二土地」という。)を、訴外京葉住宅から同社所有に係る原判決別紙物件目録第四記載の土地(以下「本件第四土地」という。)をそれぞれ買い受けた。その売買代金額は、本件第一土地、本件第二土地及び本件第四土地を併せて金一〇〇〇万円の約であり、控訴人川田商会は前同日右代金を支払つた。なお、本件第一土地の所有権の移転は農地法五条の規定による千葉県知事の許可を条件とするものであり、控訴人川田商会は、同月一六日本件第一土地について売買予約を原因とする所有権移転請求権仮登記を、同年九月八日本件第二土地について売買を原因とする所有権移転登記を経由した。

(二)  仮に、控訴人川田商会の本件第一土地についての仮登記上の権利の取得並びに本件第二土地についての所有権の取得が、売買によるものではなく、仮登記担保契約及び譲渡担保契約によるものであるとすれば、本件第一、第二土地についての右各担保権は、控訴人川田商会の訴外京葉住宅に対する昭和四五年六月八日貸付けに係る金一〇〇〇万円の債権のみならず、同年八月一一日貸付けに係る金三〇〇〇万円の債権をも担保するものである。すなわち、控訴人川田商会は、昭和四五年四月二七日訴外京葉住宅に対し、農地六〇筆を担保として金三〇〇〇万円を貸し付けたが、同年八月一〇日ごろ、訴外京葉住宅代表者浜田安男から、前記農地六〇筆を他に売却処分する都合上、前記担保の拘束を解除してもらいたい旨の申入れを受けたので、これを承諾し、同月一〇日訴外京葉住宅からいつたん右金三〇〇〇万円の債務の弁済を受けた上、改めて同月一一日訴外京葉住宅に対し、他の物件を担保として差入れを受ける旨の約束の下に、金三〇〇〇万円を返済期日同年九月一〇日と定めて貸し付けた。その後同年九月一六日に至り、訴外京葉住宅、被控訴人京葉商事及び控訴人川田商会の三者間において、被控訴人京葉商事所有の本件第一、第二土地を訴外京葉住宅の控訴人川田商会に対する右金三〇〇〇万円の新債務の担保に供する旨の合意が成立した。

(三)  したがつて、訴外京葉住宅の控訴人川田商会に対する前項の金三〇〇〇万円の債務が返済されない限り、控訴人川田商会は被控訴人京葉商事に対し本件第一土地について経由している所有権移転請求権仮登記及び本件第二土地について経由している所有権移転登記の各抹消登記手続をすべき義務はない。

2  被控訴人京葉商事の主張

(一)  控訴人川田商会の前記主張(一)のうち、同控訴人が被控訴人京葉商事から本件第一、第二土地を買い受けた旨の事実は否認する。もつとも、訴外京葉住宅が昭和四五年六月八日ごろ控訴人川田商会から金一〇〇〇万円を受領した事実があるが、右金員は訴外京葉住宅に対する貸付け金として授受されたものである。そして、被控訴人京葉商事は、訴外京葉住宅の控訴人川田商会に対する右金一〇〇〇万円の債務を担保するため、控訴人川田商会に対し、本件第一土地につき仮登記担保権を、本件第二土地につき譲渡担保権をそれぞれ設定したものである。

(二)  控訴人川田商会の前記主張(二)のうち、被控訴人京葉商事において本件第一、第二土地を控訴人川田商会主張の訴外京葉住宅に対する貸付金三〇〇〇万円の担保とすることを合意したとの事実は否認する。その余の事実は知らない。

3  被控訴人双和興業の主張

被控訴人京葉商事の原審及び当審における主張を援用する。

三  証拠関係〈省略〉

理由

一  控訴人川田商会の被控訴人京葉商事に対する本件第一土地に関する本訴請求並びに被控訴人京葉商事の控訴人川田商会に対する本件第一土地に関する反訴請求及び本件第二土地に関する請求について

1  被控訴人京葉商事が、昭和四五年六月八日控訴人川田商会との間で同被控訴人の所有に係る本件第一、第二土地につきその所有権の移転に関する合意をした上、同控訴人に対し、本件第一土地について千葉地方法務局野田出張所昭和四五年六月一六日受付第四八三〇号をもつて所有権移転請求権仮登記を、本件第二土地について同出張所同年九月八日受付第七六六五号をもつて所有権移転登記をしたことは、当事者間に争いがない。右所有権移転の合意の趣旨、目的について審究すると、控訴人川田商会が金融業者であり、訴外京葉住宅が不動産の売買、仲介、宅地の開発等を業とする会社であること、本件第四土地がもと訴外京葉住宅の所有であつたこと、控訴人川田商会が訴外京葉住宅に対し、昭和四五年六月八日金一〇〇〇万円、同年七月二九日及び同年八月一一日各金二〇〇万円、同年一〇月二六日金二四三万円を交付したこと、他方、訴外京葉住宅が控訴人川田商会に対し、昭和四五年一〇月二七日金二〇六万円、同年一一月五日金五〇万円、同年一一月七日金三〇万円、同月一一日金七〇万円、昭和四六年三月二四日金三五〇万円、同年五月八日金三一五万円、同年六月一九日金三二〇万円、同年七月一四日金三九〇万円、同年九月二日金四〇〇万円、以上合計金二一三一万円の金員を交付したことは、いずれも当事者間に争いがなく、以上の当事者間に争いのない事実と成立に争いのない甲第一号証の一、二、同第二、第三、第八、第九号証、乙第一ないし第五号証、同第一二ないし第一四号証、併合事件甲第一号証、弁論の全趣旨によつて真正に成立したものと認められる甲第七号証、乙第六ないし第一一号証、原審における控訴人浜田本人尋問の結果によつて真正に成立したものと認められる乙第一六号証、原審及び当審証人樫村武資の各証言(原審の分は一部)、原審及び当審における控訴人浜田本人尋問の各結果(いずれも一部)並びに弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実を認めることができる。

訴外京葉住宅は、不動産の売買、その仲介、宅地開発等を業とする会社であつて、昭和四五年四月ごろ、金融業者である控訴人川田商会から、茨城県鹿島郡大野村所在の山林七筆、千葉県野田市所在の山林一筆及び同県流山市所在の農地六〇筆を担保として合計金六〇〇〇万円を借り受け、利息として同控訴人に対し毎月金六〇〇万円の支払をしていたが、同年六月八日、本件第四土地の購入資金の不足分を調達するため更に同控訴人から金一〇〇〇万円の融資を受け、同日右金一〇〇〇万円の債務の担保として、訴外京葉住宅において、同社が他から代金一五〇〇万円で買い受けた本件第四土地の所有権を、同社の子会社である被控訴人京葉商事において、同被控訴人がボウリング場用地として他から代金一八〇〇万円で買い受けた本件第一、第二土地の所有権を、それぞれ控訴人川田商会に移転することを約した(ただし、本件第一土地については、債務不履行があつたときに農地法五条の規定による千葉県知事の許可を条件として所有権を移転すべき旨を約した。)。その際、被控訴人京葉商事と控訴人川田商会との間で本件第一、第二土地につき形式的には売買契約が締結され、被控訴人京葉商事から控訴人川田商会に対し、本件第一土地につき売買予約を原因として前記所有権移転請求権仮登記が、本件第二土地につき売買を原因として前記所有権移転登記がされた。

右金一〇〇〇万円の貸付けは、いわゆる開発貸付けと称するもので、本件第四土地上に訴外京葉住宅が建築する建売り住宅を土地付きで分譲した売却代金の中から返済する約であつたが、訴外京葉住宅と控訴人川田商会との間において、同年七月二九日、控訴人川田商会は訴外京葉住宅に対し右建売り住宅の建築資金として金六四三万円を追加して貸し付け、訴外京葉住宅は控訴人川田商会に対し、右建売り住宅の売却代金の中から前記開発貸付け金一〇〇〇万円及び右追加貸付け金六四三万円を返済するほか、更にその残金から建売り住宅一棟当たり金一〇万円の販売経費を控除した残額の七〇パーセントを利益分配金として支払う旨の合意が成立した。そこで、控訴人川田商会は、前同日、訴外京葉住宅に対する右追加貸付金債権を保全するため、形式上は同控訴人自身が注文者となつて、建築業者訴外冨士輪建設株式会社との間に本件第四土地上の建売り住宅五棟の建築請負契約を締結し、右訴外会社に対し、同日及び同年八月一日各金二〇〇万円、同年九月二〇日金二四三万円の請負代金を直接支払い、これによつて訴外京葉住宅に対し右建築費用合計金六四三万円を融資した。なお、右建売り住宅の井戸、外構及び道路の設置等に要する費用は訴外京葉住宅において自らこれを支弁した。かくして、訴外京葉住宅は、本件第四土地上に六棟の建売り住宅(ただし、うち一棟は購入者の注文建築に係るもの)を建築し、昭和四六年一月から七月にかけて右建売り住宅及びその敷地を代金合計金二三六〇万円で分譲し、控訴人川田商会に対し昭和四五年一〇月から昭和四六年九月にかけて被控訴人京葉商事主張のとおり合計金二一三一万円を支払つた。

以上のように認められ、原審証人樫村武資の証言並びに原審及び当審における控訴人浜田本人及び被控訴人川田商会代表者の各尋問の結果中、右認定に反する部分は、前掲各証拠に照らし採用し難い。また、成立に争いのない甲第四、第五号証は、本件第四土地の付近にある流山市西深井字十ノ割八三五番一〇山林一二二六平方メートル(控訴人浜田は、原審における本人尋問において、本件第四土地は右八三五番一〇山林の一部であつて、後に分筆されたものである旨供述するが、本件第四土地の地番は八三五番八であり、分筆された土地の地番の枝番が元地の枝番より若くなることは通常考えられないところであるから、右供述は容易に信用することができず、右八三五番一〇山林は本件第四土地とは別の土地であると認められる。)についての買戻し約款付き譲渡契約に関し作成された書類であつて、右契約は従来認定に係る金一〇〇〇万円の開発貸付金債権とは別に成立した金一〇〇〇万円の貸金債権担保のための契約であることが当審証人樫村武資の証言によつて明らかであるから、甲第四、第五号証の記載は何ら前認定を妨げるものではなく、他に前認定を左右するに足りる証拠はない。

2  右認定の事実によれば、被控訴人京葉商事と控訴人川田商会との間に成立した本件第一土地についての条件付所有権移転の合意及び本件第二土地についての所有権移転の合意は、外形上は売買又は売買予約の形式をとつているけれども、その実質は、終局的な所有権の移転を目的とする通常の売買ではなく、控訴人川田商会の訴外京葉住宅に対する金一〇〇〇万円の開発貸付金債権の担保を目的として、本件第一土地については仮登記担保権を、本件第二土地については譲渡担保権をそれぞれ設定する旨の合意であると認めるのが相当である。したがつて、その被担保債権が弁済された場合には、本件第一、第二土地上の仮登記担保権ないし譲渡担保権は消滅し、控訴人川田商会の経由している前記所有権移転請求権仮登記及び所有権移転登記は、いずれも抹消されるべきものといわなければならない。

3  控訴人川田商会は、本件第一、第二土地は、昭和四五年九月一六日訴外京葉住宅、被控訴人京葉商事及び控訴人川田商会の三者間に成立した合意により、控訴人川田商会の訴外京葉住宅に対する昭和四五年六月八日貸付けに係る前記金一〇〇〇万円の債権のほか、同年八月一一日貸付けに係る金三〇〇〇万円の債権をも担保すべきものとされるに至つた旨主張するが、成立に争いのない甲第六号証、当審証人樫村武資の証言、同証言によつて真正に成立したものと認められる甲第一一ないし第一三号証によると、控訴人川田商会は昭和四五年八月一一日訴外京葉住宅に対し土地買収資金として金三〇〇〇万円を貸し付け、その際控訴人川田商会の営業担当係員樫村武資は訴外京葉住宅の代表取締役である控訴人浜田に対し、土地買収に成功しなかつたときは訴外京葉住宅に対する従来の債権の担保となつている不動産を更に右金三〇〇〇万円の債権の担保として差し入れるべきことを要求したこと、訴外京葉住宅は、同年一〇月一三日銀行取引停止処分を受け、右金三〇〇〇万円の借受金の支払のため控訴人川田商会にあてて振り出した同月一七日満期の約束手形を決済することができなくなつたこと、右樫村は同年末ごろまで右債権の回収及び担保の差入れ等に関し控訴人浜田と話合いを続けたが、所期の目的を達しないまま、昭和四六年初めごろ控訴人川田商会を退職したことを認め得るにとどまり、被控訴人京葉商事が本件第一、第二土地を控訴人川田商会の訴外京葉住宅に対する右金三〇〇〇万円の債権の担保に提供することを承諾した事実については、これを確認し得る証拠がない。

もつとも、甲第一七号証は被控訴人京葉商事作成名義の控訴人川田商会あて昭和四五年一〇月一九日付け念書であつて、訴外京葉住宅に対する金三〇〇〇万円の債権の弁済に充てるため本件第一土地を控訴人川田商会において随意処分されても異存はないとの趣旨に解される文言の記載があり、末尾に被控訴人京葉商事の代表取締役日暮久義の記名ゴム印、会社印及び代表取締役印が押捺されているところ、右会社印及び代表取締役印の印影が被控訴人京葉商事の真正な印章によつて顕出されたものであることについては当事者間に争いがなく、また、当審における控訴人川田商会代表者尋問の結果中には、甲第一七号証の念書は、訴外京葉住宅振出しに係る昭和四五年一〇月一七日満期の額面三〇〇〇万円の約束手形が不渡りとなつたので、自分が控訴人浜田に対し善処方を要求したところ、控訴人浜田及び被控訴人京葉商事代表者日暮久義の両名が甲第一六号証(訴外京葉住宅作成名義の誓約書)及び第一八号証(被控訴人京葉商事代表者の印鑑証明書)と共に控訴人川田商会事務所に持参したものであり、その際には既に本文の記載も完了していた旨の供述部分がある。しかしながら、甲第一七号証の念書の本文中には訂正箇所が全くないのにかかわらず、その欄外には三箇所にわたり捨て印が押捺されているうえ、その本文、作成日付け、作成名義人の記名押印及び名あて人の記載の各行間が異様に空いていて余白が多く、その体裁は全体として不自然であり、本文が記載されるに先立つて白紙に記名押印及び捨て印が施されたのではないかとの疑念を生ぜしめるに十分である。この事実に原審及び当審における控訴人浜田本人尋問の結果を併せ考えると、訴外京葉住宅及び被控訴人京葉商事は本件第一、第二土地にボウリング場を建設して営業する予定であつたが、控訴人浜田は、控訴人川田商会の申出により同控訴人に対し右事業につき協力方を依頼し、ボウリング場の設置運営に必要な書類として、かねて控訴人浜田において保管中の被控訴人京葉商事の会社印及び代表取締役印を白紙に押捺した上、控訴人川田商会に対し所要事項の記入を委託してこれを同被控訴人の印鑑証明書と共に預けておいたところ、控訴人川田商会の手により右白紙に委託の趣旨と異なる文言が記載され、甲第一七号証の念書が作成されるに至つたものと認めるのが相当であり、右認定に反する控訴人川田商会代表者の前掲供述部分は採用することができない。そうすると、甲第一七号証の念書は真正に成立したものとは認められないので、控訴人川田商会の前記主張事実を証すべき資料とすることは許されない筋合いである。

また、原審及び当審証人樫村武資の各証言中には、本件第一、第二土地が前記金三〇〇〇万円の貸付金債権をも担保するものであつたかのような供述部分があるけれども、控訴人川田商会と被控訴人京葉商事との間でその旨の書面が作成された事跡は見当たらないこと及び当審における控訴人浜田本人尋問の結果に照らし、右供述部分は容易に採用することができない。

以上の次第であるから、控訴人川田商会の前記主張は排斥を免れない。

4  ところで、訴外京葉住宅と控訴人川田商会との間における前認定の利益分配の約定に従つて控訴人川田商会の受けるべき利益分配金額を算定すると、本件第四土地上に建築された建売り住宅六棟の売却代金額は合計金二三六〇万円であるから、右金額から土地購入資金一〇〇〇万円、建築費用六四三万円、販売経費六〇万円を控除した残利益額六五七万円の七〇パーセントに当たる金四五九万九〇〇〇円が控訴人川田商会の受けるべき利益分配金額である。そうすると、控訴人川田商会が右売却代金の中から取得すべき金額は、土地買収資金一〇〇〇万円、建築費用六四三万円、利益分配金四六〇万円弱の合計額である金二一〇三万円弱であるのに、訴外京葉住宅から控訴人川田商会に対し既に合計金二一三一万円が支払われているのであるから、本件第一、第二土地によつて担保される控訴人川田商会の訴外京葉住宅に対する債権は完済により消滅したことが明らかである。

5  以上に説示したとおりであつて、被控訴人京葉商事に対し、本件第一土地について千葉県知事に対する農地法五条所定の許可申請手続及び右知事の許可を条件とする所有権移転登記手続の各履行を求める控訴人川田商会の本訴請求は、いずれも失当として棄却すべきであり、控訴人川田商会に対し、本件第一土地について同控訴人の経由している所有権移転請求権仮登記の抹消登記手続の履行を求める被控訴人京葉商事の反訴請求並びに本件第二土地について同控訴人の経由している所有権移転登記の抹消登記手続の履行を求める被控訴人京葉商事の請求は、いずれも正当として認容すべきである。

二  控訴人川田商会の被控訴人双和興業に対する本件第一土地に関する請求について

1  被控訴人京葉商事の所有に係る本件第一土地について、控訴人川田商会が千葉地方法務局野田出張所昭和四五年六月一六日受付第四八三〇号をもつて所有権移転請求権仮登記を経由し、次いで被控訴人双和興業が同出張所昭和四六年六月八日受付第四七四三号をもつて根抵当権設定仮登記を経由していることは、当事者間に争いがない。

2  控訴人川田商会は被控訴人双和興業に対し、農地法五条の規定による千葉県知事の許可を条件として、被控訴人京葉商事が本件第一土地につき控訴人のため前記所有権移転請求権仮登記に基づく所有権移転の本登記手続をすることについての承諾を求めるものであるが、本件第一土地について控訴人川田商会の経由している右所有権移転請求権仮登記は、その登記原因が既に消滅した結果、同控訴人において被控訴人京葉商事に対し右仮登記に基づく本登記請求権を有しないことは前段において説示したとおりであるから、被控訴人双和興業が右仮登記に基づく本登記手続について承諾すべき義務を負うものでないことは言うまでもないところである。よつて、被控訴人双和興業に対する控訴人川田商会の右請求は失当として棄却すべきである。

三  控訴人浜田の被控訴人川田商会に対する本件第三物件に関する請求について

1  控訴人浜田が、昭和四五年八月二一日被控訴人川田商会に対し同控訴人の所有に係る本件第三物件を譲渡し、本件第三物件につき千葉地方法務局同年八月二六日受付第五八九九七号をもつて被控訴人川田商会のため所有権移転登記を了したことは、当事者間に争いがなく、右の争いのない事実に、原本の存在及び成立につき争いのない甲第二二号証、成立に争いのない甲第二三ないし第二七号証、弁論の全趣旨によつて真正に成立したものと認められる甲第一〇号証、原審における控訴人浜田本人尋問の結果によつて真正に成立したものと認められる乙第一六号証、原審証人樫村武資の証言、原審における控訴人浜田本人尋問の結果を総合すると、控訴人浜田は、他の土地開発業者に対し転売する目的の下に、昭和四五年八月二一日訴外株式会社東葉牧場から同訴外会社所有に係る本件第三物件を、代金一五〇〇万円、ほかに本件第三物件に付着している抵当債務の履行を引き受ける旨の約定の下に買い受け、同月二六日その旨の所有権移転登記を経由したこと、右買受け代金一五〇〇万円は、控訴人浜田が代表者をしている訴外京葉住宅において同月二一日被控訴人川田商会から借り受けて調達したものであること、訴外京葉住宅と被控訴人川田商会との間における右金一五〇〇万円の貸借については、貸付け期間は原則として一箇月とするが、情況に応じ延長することができる旨の約であり、利益分配金として一箇月先の同年九月二一日に金一五五万円を支払う旨の約であつたこと(右利益分配金は利息制限法三条の規定により利息とみなされるが、その利率は、元金一五〇〇万円に対する貸借成立の日である昭和四五年八月二一日から同年九月二一日まで一箇月一日の貸借期間につき金一五五万円の割合であるから、月一割となる。)、控訴人浜田は、右貸借成立の際、被控訴人川田商会の訴外京葉住宅に対する右貸付け金元金及び利益分配金債権を担保する目的で、本件第三物件につき被控訴人川田商会のため売買の形式を借りて譲渡担保権を設定し、同年八月二六日被控訴人川田商会に対し売買を原因とする所有権移転登記をしたことが認められる。原審及び当審における被控訴人川田商会代表者尋問の各結果中、右認定に反する部分は、前顕各証拠と対比すれば信用し難く、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

2  右のように、被控訴人川田商会が本件第三物件について経由している所有権移転登記は、終局的な所有権の移転を目的とする通常の売買契約に基づくものではなく、債権担保を目的とする譲渡担保契約に基づくものであり、かつ、本件に現れた全証拠によつても、債権者である被控訴人川田商会において本件第三物件に対する譲渡担保権の実行としての換価処分を結了した事実は認められないので、本件第三物件によつて担保される被控訴人川田商会の訴外京葉住宅に対する前記貸金債権が弁済その他の事由により消滅した場合には、前示所有権移転登記は抹消されるべきものであるが、右貸金債権が弁済その他の事由により消滅した事実を肯認し得る的確な証拠は見当たらないので、控訴人浜田は被控訴人川田商会に対し、前示所有権移転登記の抹消登記手続を無条件で求めることはできないものというべきである。しかしながら、被控訴人川田商会が、本件第三物件は同被控訴人において控訴人浜田から通常の売買により確定的にその所有権を取得したものである旨主張して、控訴人浜田の担保物取戻しの要求に応じない態度を明示していることは当事者間に争いのないところであるから、このような事情の下においては、控訴人浜田は将来の給付の訴えとして被控訴人川田商会に対し、被担保債権の元利金の弁済を条件として前記所有権移転登記の抹消登記手続の履行を請求することが許されるものといわなければならない。

3  ところで、いずれも成立に争いのない甲第一九、第二〇号証の各一、二、第二一号証、前掲甲第二二ないし第二七号証を総合すると、被控訴人川田商会の当審における昭和五二年(ネ)第三一七三号事件関係の主張2(二)の事実を認めることができ、右認定に反する証拠はない。

被控訴人川田商会は、右認定のように本件第三物件の上に存する先順位根抵当権の被担保債権の元利金を弁済したことによつて同被控訴人の取得した合計金二四一二万〇四五一円の求償債権が本件第三物件についての譲渡担保権の担保すべき債権の範囲に含まれるとの前提の下に、訴外京葉住宅に対する前記金一五〇〇万円の貸金債権の元利金のほか右金二四一二万〇四五一円の求償債権の元利金の弁済がない限り、被控訴人川田商会において本件第三物件の所有名義を控訴人浜田に対し返還すべき義務はない旨主張する。

しかしながら、不動産の譲渡担保権者が当該不動産の上に存する先順位根抵当権につき元本の確定した被担保債権を弁済して、その負担を除去した場合には、右の弁済に要した費用は、担保物の保存に要した費用に該当するところ、不動産の譲渡担保の場合にあつては、譲渡担保権者が担保物を占有するのを常態としないことにかんがみれば、その担保すべき債権の範囲については、設定行為に別段の定めのあるときを除き、原則として抵当権の場合に準じて考えるべきであり、この見解に立脚するときは、譲渡担保権は、元本、利息、譲渡担保権実行の費用及び債務不履行によつて生じた損害の賠償を担保するが、担保物保存の費用は譲渡担保権の担保すべき債権の範囲に包含されないものと解するのが相当である。したがつて、設定行為に別段の定めのあることにつき主張立証のない本件においては、本件第三物件についての譲渡担保権の被担保債権である前記金一五〇〇万円の貸金債権の元利金が弁済されたときは、被控訴人川田商会は、右金二四一二万〇四五一円の求償金債権の元利金が弁済されていないことを理由として、控訴人浜田に対し本件第三物件の所有名義の返還を拒絶することはできないものといわなければならない。

なお、被控訴人川田商会のした前記抵当債務の弁済は抵当不動産の第三取得者による代位弁済であるから、民法四七四条、五〇〇条、五〇一条により、同被控訴人は先順位根抵当権者の有していた元本確定後の根抵当権を自己の有する前記求償権の範囲内において行使することができるし、また、もし同被控訴人が本件第三物件を占有しているとすれば、同法一九六条一項、二九五条により、同被控訴人は前記抵当債務の弁済に要した費用の償還を受けるまでは控訴人浜田に対し本件第三物件の引渡しを拒絶することができるのであるから、右費用の償還がないことを理由として所有名義の返還を拒絶することは許されないものと解しても、同被控訴人の正当な利益が害されることはないものというべきである。

よつて、被控訴人川田商会の前記主張は採用しない。

4  以上の認定、判断によれば、被控訴人川田商会は、債務者である訴外京葉住宅から前記貸金元金一五〇〇万円及びこれに対する昭和四五年八月二一日から完済まで約定利率を利息制限法所定の最高限度に引き直した年一割五分の割合による利息、損害金の支払を受けたときは、控訴人浜田に対し本件第三物件について同被控訴人のためなされている所有権移転登記の抹消登記手続をすべき義務がある。控訴人浜田の被控訴人川田商会に対する本訴請求は、右義務の履行を求める限度において正当として認容し、これを超える部分を失当として棄却すべきである。

四  結論

1  原判決中、控訴人川田商会の被控訴人京葉商事に対する本件第一土地に関する本訴請求並びに被控訴人京葉商事の控訴人川田商会に対する本件第一土地に関する反訴請求及び本件第二土地に関する請求に関する部分は、いずれも正当であつて、控訴人川田商会の被控訴人京葉商事に対する本件控訴は理由がないから、民訴法三八四条に従い、これを棄却することとする。

2  控訴人川田商会の被控訴人双和興業に対する請求は、理由がないものとして棄却すべきところ、原判決は、同控訴人の右請求に係る訴えはその利益を欠き不適法であるとして却下したものであつて、原審の右判断は不当であるが、被控訴人双和興業からは原判決中の右訴え却下の部分に対し控訴又は附帯控訴による不服の申立てがなく、控訴人川田商会にとつては訴え却下の判決は請求棄却の判決よりも有利であるから、同法三八五条により、原判決中被控訴人双和興業に関する部分は変更することなく、これを維持して、控訴人川田商会の被控訴人双和興業に対する控訴を棄却することとする。

3  原判決中、控訴人浜田の被控訴人川田商会に対する本件第三土地に関する請求に関する部分は、当審の前叙判断と符合しない限度でこれを変更し、右請求を条件付きで認容し、その余の請求を棄却することとする。

4  なお、原判決主文第二項1のうち「所有権移転仮登記」とあるのは「所有権移転請求権仮登記」の、原判決別紙物件目録第一の一のうち「提根新田」とあるのは「堤根新田」の、同目録第三の五のうち「同所四四五番一」とあるのは「同所四四五番地の一」の明白な誤記と認められるから、主文第三項においてその旨更正することとする。

5  よつて、訴訟費用につき民訴法八九条、九二条、九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 貞家克己 近藤浩武 川上正俊)

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